握手をする経験者のイラスト

現在、新型コロナウィルスの影響により、財務や資金繰りが悪化する中小企業が相次ぐ中、後継者を見つけられず廃業に追い込まれるケースが出ています。

また、有限会社の代表が後継者探しに困り、事業承継のためにM&Aを行いたいとの問い合わせも増えています。

そもそも、有限会社が事業承継を目的としてM&Aを行うとき、株式会社の場合と比較してどのような違いがあるのでしょうか。

現在の「有限会社」の位置づけ

有限会社は、かつて株式会社の小規模零細版として導入されていた法人格の制度です。

現在では、新たに有限会社を設立することが禁じられていますが、過去から有限会社として運営されていたのであれば、今でも例外的に有限会社を名乗り続けることが許されています。

もともと有限会社は、株式会社に近い制度

小規模・零細の企業を前提とした会社制度としては、ほかに合名会社や合資会社がありますが、会社が抱えた負債などを代表者が無限に返済する義務があります。

つまり、会社の法的責任と経営者の法的責任が分離されておらずに、事実上、一体化されているのです。そのため、会社が大きなチャレンジをすれば、経営者の人生そのものをリスクにさらすおそれがあります。

そこで、会社の責任と経営者の責任を切り分けて、たとえ会社が倒産しても、経営者らは会社に出資した額以上の損失を抱えずに保護する扱いとしたのが、株式会社や有限会社といったものです。

かつて、株式会社は1000万円以上の資本金を積まなければ設立できませんでしたが、有限会社は300万円以上の資本金で設立できました。

また、株式会社ではその会社所有権(オーナーシップ)を細分化した株式を、原則として会社の許可なく自由に流通させられます。流通を促進させ、人々が証券会社を介して、証券取引所で株式を取引できるようにし、市場から大規模な資金調達を可能にするのが、株式の上場です。

さらに、株式会社の取締役は3人以上必要で、取締役会の設置が義務づけられていました。

一方で、有限会社では株式を発行することができず、会社所有権は持ち分として、経営者やその身近な人々のみで独占しているのが通常です。もちろん、有限会社が上場することもできません。

そのため、有限会社は小規模・零細、あるいは個人会社に適している法人格の形態とされていたのです。

ただ、多くの株式会社も実態は小規模・零細企業でした。

有限会社よりも株式会社のほうが、大企業や公的機関などと取引するときに有利だと、イメージ先行で思い込まれてきたので、無理して1000万円の資本金を用意したり、会社の経営にほぼ関わらない人が名義貸しのように形式的に取締役に就任するなど、株式会社と有限会社の実質的な境界線が、曖昧になっていたのです。

法改正によって、有限会社も株式を発行できるようになった

2006年に、商法の一部の条文が独立して制定された「会社法」が施行されたことをきっかけに、有限会社の制度は廃止され、新規設立が禁じられました。

また、株式会社の資本金要件や取締役の人数要件も廃止され、資本金は1円以上、取締役は1人以上で設立が可能になりました。

一方で、会社法の施行より前から存在した有限会社は、そのまま有限会社の名称を使い続けることができます。さらに、株式の発行もできるようにもなりました。

ただし、有限会社の発行する株式は、株主総会の決議がなければ、新たに株主になろうとする人へ渡すことができない譲渡制限株式とされます。零細で閉鎖的な会社であることを前提に制度設計されていますので、有限会社の把握していない人がいつの間にか大株主となり、経営者を凌駕する支配権を持たないようにしているのです。

株式会社の譲渡制限株式では、取締役会の承認が必要となるところですが、有限会社では取締役会を設置する法的義務がありませんので、代わって株主総会が承認するのです。

有限会社が事業承継を行うときの注意点

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今ある有限会社は、事実上の株式会社として扱われています。一般の株式会社による事業承継と、何が異なるのでしょうか。

それは、既に述べたとおり、有限会社が発行する株式には譲渡制限が付いているからです。

有限会社は、経営権を他人に譲り渡す制度設計になっていない

まして、株式を発行していない有限会社でしたら「持分を譲渡する」という法的に特殊な手続きを要しますので、なおさら事業承継は厄介となります。

すなわち、特定の人物だけで閉鎖的かつ小規模に経営されることを前提としている有限会社では、基本的にその経営権を外部の誰かに譲り渡すような設計となっていないのです。

その有限会社の経営者の子息など、身内へ経営権を譲り渡すのであれば、難しくはありません。その身内が既に株主となっているのなら、株式の譲渡制限がかかりませんので、発行済み株式総数の過半数の株式を譲渡すれば、経営権の譲渡も完了します。

しかし、身内で跡継ぎが見つからない場合は、他の企業を迎えてM&Aなどを行う必要があります。

株主総会を招集して株式譲渡の承認の手続きを取ったり、株式を発行していない有限会社なら持分権の配分を変えたりする(名義書換)など、そもそも譲渡を予定していないものの譲渡手続きを採らなければなりません。

譲渡制限株式について、譲渡承認の手続きを取らなければならない時点で、経営者が事業承継を、他の株主に秘密で進めることはできなくなってしまいます。もし、反対が多ければ、事業承継そのものも頓挫してしまうでしょう。

しかも、有限会社のM&Aには制限があります。現在、有限会社の新設は法律で禁じられているため、他の有限会社と合併したり、株式交換・株式移転を行ったりすることで、新たな有限会社をつくるM&Aもできません。その場合は、株式会社を新設しなければなりません。

その点で、有限会社の事業承継は、一般の株式会社よりも制約があり、手続き面でやや重たく煩雑になるおそれがあります。

まとめ

OKサインの男性
有限会社の制度そのものは2006年に廃止され、株式会社制度に集約されていますが、2006年より前に設立された有限会社は、特例として有限会社を名乗ることができています。

有限会社を、株式会社よりも一段下にみる経営者も確かにいます。しかし、株式会社も最低資本金1円で設立できる現在では、株式会社も個人事業の法人格として身近なものとなっていますので、有限会社の蔑視はもはや意味がありません。

有限会社の経営者は、むしろ、300万円以上の資本金を積んで設立し、少なくとも15年以上にわたって経営を続けてきた裏付けになっています。

日本はむしろ、有限会社に代表される中小企業の技術とノウハウに支えられて発展してきたといえますから、自信を持ってM&A市場に臨んでいただきたいです。

法人格の名称にかかわらず、あなたの会社の素晴らしさを評価し、事業の引き継ぎを望む経営者はどこかに必ずいるはずです。

ただ、有限会社のM&Aにはいくつかの注意点があり、株式会社のそれよりも難しい側面があります。よって、M&A仲介会社・アドバイザリーといった専門家の力を借りることが得策です。

事業承継の成功は仲介会社の選定で決まる!

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