M&A仲介会社・アドバイザリーとの契約締結が済みましたら、いよいよ、M&Aの相手方、買い手となる企業を探し出す手続きに移ります。
需要と供給が合う企業同士のマッチングさせるわけですから、まるで理想の結婚相手を探す「婚活」に近いといえるかもしれません。
ひとりだけなら偶然に頼らなければなりませんが、M&A仲介会社・アドバイザリーの力を借りれば、「運命の出会い」に辿り着く可能性は大幅に高まります。
この記事では、M&Aの売り手企業と買い手企業の「マッチング」について解説しています。
まずは、自社のことを改めて知る
あなたは会社を立ち上げ、幾度の困難を乗り越えて、長年にわたって従業員の雇用を守り、ここまで立派な会社に育て上げてこられました。
しかし、あなたの会社、そしてあなた自身のことは、意外と知らないはずです。まだ気づいていない強みもあるかもしれません。見ないようにしたい欠点もあるのでしょう。それだけでなく、外側から客観的かつ冷静に観察するからこそ、見えてくるものも必ずあるのです。
M&Aの準備段階では、混乱などを避け、従業員に知られず秘密裏に進めなければならないため、従業員からアドバイスをもらうわけにもいきません。
そこで、あなたの会社に関する客観的な基礎情報を、全方位的に調査・収集・分析・評価するのも、M&A仲介会社・アドバイザリーの重要な仕事となります。
それは、あなたの会社の買い手を見つけるための「プロフィール」を作成し、さらに会社の「譲渡希望価格」の目安を算出するためです。
その前提として、M&A仲介会社・アドバイザリーは、定量面と定性面で、あなたの会社の分析を行います。
M&A売り手企業の「定量分析」
まず、数字で測定できる定量分析を行います。会社のお金の流れや規模を把握することは、定量分析の中でも代表的なものです。
たとえば、貸借対照表や損益計算書を見直し、資産と負債に関するバランスを精査したり、売上げや経費、返済能力などのキャッシュフロー面について改めて把握したりするため、情報収集や分析を行います。
このほか、支店や部署別の従業員の人数や配置、事業活動に使用する生産拠点の規模や設備・車両などの数など、数値化できる基礎資料を正確に整理します。
場合によっては、これらの数字の裏付けとなる原資料などのエビデンス収集や現地調査などを実施することもあります。
売り手企業の「定性分析」
定量分析と並行して、数字では必ずしも表せない要素も見直し、整理していきます。
たとえば、社長ほか取締役の過去の経歴や実績、現在の活動内容などを洗い出します。
事業承継をきっかけに社長は退任するとしても、取締役がM&A後も経営陣として続投すべきかどうか、買い手側の企業が判断する一要素となります。
社長が抱いている会社経営への思いやビジョン、事業コンセプト・ビジネスモデル、あるいは、会社が属する業界内でのポジションや将来性なども、M&Aとして連携できるかどうかの判断資料として重要です。
2種類のプロフィール
こうした定性分析と定量分析をもとにして、M&A仲介会社・アドバイザリーは独自の算出式に沿って、会社の市場価値にふさわしい適正な譲渡希望価格を導き出します。
この譲渡希望価格が高ければ高いほど、売り手企業の経営者だけでなく、M&A仲介会社・アドバイザリーにとっても大きな利益になります。しかし、高すぎれば買い手が付かず、売り手企業の期待を裏切ってしまうだけでなく、M&A仲介ビジネスの中でも、利益面で大きな割合を占める成功報酬を受け取れなくなります。
よって、高すぎず安すぎない、適正な譲渡希望価格を算出することは、M&A仲介会社・アドバイザリーの腕の見せどころといえます。
さらに、M&Aの買い手候補となる企業の経営者にチェックしてもらう「プロフィール」をつくり、契約の相手方としてマッチングできるかどうか、可能性を探っていきます。
このとき、プロフィールを2段階に分けて作成するのが通常です。
どの企業かが特定されないよう、基本情報のみを抽象的に取り出し、不特定の候補企業が閲覧するために作成する「ノンネームシート」と、具体的に関心を持ってくれた企業に対して、より詳細なプロフィールを伝える「企業概要書」です。
ノンネームシートと企業概要書は、M&Aの買い手探しに必須ですので、前もって納得いくまで時間をかけて制作しておく必要があります。
ノンネームシートとは?
「non name」、つまりは、M&Aを希望する企業を匿名で紹介する書類です。
なぜなら、ある会社がM&Aを準備中である事実が、世間で前もって漏れてしまうと、M&Aが不成立になったり悪影響が及ぼされたりする可能性が高まるからです。
もし、従業員に漏れれば、「社長はもうすぐ、大金を受け取って引退するらしい」と受け取られてしまい、仕事へのモチベーションが下がったり、会社への反感が高まり優秀な従業員が辞めて、他の会社へ移ったりする場合もありえます。
もうすぐM&Aで経営主体が替わると取引先に知られてしまえば、契約を打ち切られたり、不利な条件を押しつけられるおそれも否定できません。
よって、M&Aを準備中であるとの事実を、秘密としてできるだけ漏れないようにするため、M&Aの相手方を探す初期段階には、M&Aの買い手側企業に対しても、会社名などを伏せたノンネームシートとして、プロフィールを公表するのです。
通常は、1社につきA4用紙1枚でまとめられるノンネームシートには、地域・業務内容・譲渡理由・従業員数・売上高などの基本的内容がシンプルに記載されています。
従業員数や売上高といった定量的な情報も、正確に1桁単位まで記載すると、社名が特定されてしまうおそれがあることから、「10~20人」「1000万円~1億円」など、幅を持たせた書き方になっています。
企業概要書とは?
M&Aの買い手候補企業は、条件に合った売り手候補企業のノンネームシートを、M&A仲介会社・アドバイザリーから、何枚も、あるいは何十枚も取り寄せて、比較検討します。
そして、より具体的に知りたいと思った企業について、A4用紙で数十枚にも及ぶ詳細な企業概要書(インフォメーション・メモランダム)を閲覧するのです。
企業概要書の中には、ノンネームシートでは伏せられていた企業情報、特に財務状況などの具体的な実態から、自社とM&Aをした企業に期待される相乗効果(シナジー)や、将来の展望などが記載されています。それだけでなく、担当しているM&A仲介会社・アドバイザリーから見た分析結果なども綴られています。
企業概要書には、社名を含めた具体的な情報が掲載されていますので、買い手候補企業は、企業概要書を閲覧する前に、必ず秘密保持契約を締結します。
秘密を守ることを条件に、買い手候補企業の代表に企業概要書を見せるわけです。
買い手側がこの企業概要書を検討し、M&Aの相手方としてふさわしいと判断すれば、いよいよ、買い手と売り手の代表同士が面会する「トップ会談」へと移ります。
このトップ会談でお互いに意気投合し、条件面でも擦り合わせが進めば、M&Aの正式契約に向けて具体的に動き出すことになります。
まとめ
後悔のないM&Aの理想的な相手方探しを、経営者が自分だけで行うのは、率直に申し上げて非常に骨が折れます。通常業務と並行して、M&Aの相手方探しまで行うと、従業員も異変に気づきますし、ずっと探し出せないままM&Aのタイミングを逸することにもなりかねません。
ですから、M&Aの売り手と買い手をマッチングさせる専門家の力を借りることが重要なのです。
ノンネームシートには、具体的な企業情報を盛り込むことはできません。かといって、シンプルな内容に寄ってしまうと、M&Aで投資をしたい買い手企業の注目を引くことはできません。つまり、本来はマッチングできたはずの企業とマッチングできない失態を犯しかねないのです。
経験豊富なM&Aアドバイザリーや仲介会社を借りることができれば、幅広く深い企業ネットワークを駆使して、早期かつ満足のいく買い手企業とのマッチングを実現できるでしょう。加えて、バランス感覚に優れて熱のこもった「ノンネームシート」「企業概要書」を作成し、買い手企業とのトップ面談へ漕ぎ着ける可能性をさらに高めることもできます。