M&Aによって自社の事業承継を希望する経営者としては、相手方の企業と合併する選択をすることもできます。ただし、合併では思い入れのある自社が法人格としての形を失うため、避けたいと考える人も少なくありません。
そこで、M&A後も自社が存続する選択肢のひとつとして「子会社」となる道があります。この記事では、「子会社化」の基本的な知識やそのメリットについて解説します。
目次
そもそも「子会社化」とは、どういう意味?
ある株式会社が、他の株式会社を「子会社化」している状態とは、定義がはっきりしています。その会社がすでに発行している株式総数のうち、過半数(50%超)を取得している状態を指します。
株式とは、会社の所有権・経営権(オーナーシップ)を細分化して、取引しやすくしたもののことです。そして、会社経営に関する重要事項を決定するときには、株主の多数決によって決定します。そうした株主による議論と議決の場として開かれているのが、株主総会です。
ただ、株主総会では、選挙などでの一般的な投票とは異なり、「資本多数決」が採用される特徴があります。株主の頭数ではなく、株式保有の合計数で決議するのです。
たとえば、100株を発行している株式会社があるとして、1株ずつを保有する49人の株主が反対意見を出していても、残り51株(発行済み株式総数の過半数)を独占する1人の株主が賛成していれば、その議題は通るしくみとなっています。
ある会社が、別の会社の発行済み株式総数のうち過半数を独占していれば、その会社のほとんどの方向性をコントロールする支配状態に置くことができるのです。その場合、発行済み株式総数の過半数を1社に独占された状態の会社を「子会社」といい、対して独占している会社を「親会社」と呼びます。
このような、親会社による子会社化も、M&Aの一種であり、事業承継などの目的でも活用されます。
なお、ある会社が、別の会社の株式総数のすべて(100%)を保有する状態を「完全子会社化」といいます。この場合、親会社と子会社は別の法人格です。その点で、買収された会社の法人格の消滅などを伴う、合併によるM&Aとは異なります。
ただ、親会社が完全子会社のすべての決定権を握っているので、お互いに事実上の同一会社といえるでしょう。
子会社化によるM&Aのメリット
ここからは、子会社化によるM&Aのメリットを紹介していきます。
買収した子会社のブランドなど、対外的イメージを活用できる
たとえば、ある会社を吸収合併して、その経営実態を自社の一部門として引き継がせる場合でも、その会社が従前の事業で有してきた人材や技術、ノウハウ、顧客リストなどを用いることは可能です。
ただ、吸収合併では会社の法人格を消滅させるので、その会社が長年にわたって身につけてきた社会的信用やブランドイメージなども消滅させかねないため、その点ではもったいない選択とも言えます。
子会社化では、法人格をそのまま維持しながら経営的な支配下に置きます。そのため、子会社がそれまでの経営で地道に培ってきた信用やブランドを親会社が用いて、さらなる発展を図ることもできます。
子会社の経営者にとっても、今まで育ててきた思い入れのあるブランドなどの資産を維持できることは、精神衛生上も健全な状態を保てると考えられます。
ただし、法人格が独立した状態の子会社が、親会社のブランドイメージを活用することは難しいのが一般的です。売り手会社がM&Aで買い手側のブランドイメージを活用したい場合は、吸収合併される選択をするのが筋でしょう。
買収した子会社の人事制度など、対内的なしくみを活用できる
会社が吸収合併されて、別会社の一部門として組みこまれる場合には、従業員の配置や人事制度のしくみ作りなどで混乱が生じる場合もあります。
複数の会社には別々の就業規則や給与体系、組織体系、人事評価制度、間接部門(総務部や経理部など)が存在しますので、これらを統合するにあたっては、吸収合併された側の従業員が新たな制度やしくみに適応しなければならず、労力や精神的負担がかかる場合もあります。
その点、子会社として独立した法人格が維持されるなら、親会社のやり方に必ずしも従う必要はありません。スムーズに新体制に移行できるメリットがあります。
ただし、企業グループ全体では、統合できるはずの複数の仕組みや部門が並立するため、経営上で非効率な部分が生じうるところに注意が必要です。
M&A後の展開の選択肢が増える
子会社としての法人格を維持しており、子会社の業績が回復した場合、その子会社に他社を買収させて「孫会社化」させ、一大グループを築くこともできますし、さらには株式上場させて、市場から幅広く資金調達させることができます。
一方で、業績が芳しくない場合には、その子会社のみを他社に売却して、その売却益で損失を補填したり、新たな事業のために投資したりすることができます。
これらは、吸収合併などのM&A手段を用いたときには得られないメリットといえます。
まとめ
子会社化・完全子会社化は、M&Aの一手段ですが、一般的には買い手企業にその決定権・イニシアチブがあります。
売り手企業が子会社として法人格が維持されることを希望するためには、相手方に対して、以上に挙げたような子会社化のメリットを挙げながら交渉することになります。なお、子会社化には、親会社にとって節税効果を得られるなど、いくつもメリットがあります。