M&Aが増加する背景には少子高齢化問題、産業構造の変化、企業のグローバル化などがあげられます。経営戦略の一つにM&Aがありますが、売り手側、買い手側それぞれのメリットもある一方で多くの問題点があります。M&Aを実行する際にどのような問題点があるのか。問題解決にはどのような対策を取るべきかが大切になります。
後継者問題がM&Aの大きな背景に
M&Aが起こる代表的なのが経営者の高齢化に伴う「後継者問題」です。経営者たちが高齢になり引退を考えた時に、後を継がせる親族や社員がいない場合、会社をたたまないでM&Aを選択します。
企業が廃業すれば、当然事業の継続は不可能になり、培ってきた技術やノウハウが失われるだけでなく、従業員は失業し顧客もサービスの提供を受けられなくなります。
「事業の拡大」もM&Aの背景です。企業が既存もしくは新規分野で、事業をさらに大きくする経営手法で、規制緩和や情報化による環境の変化により、中小企業同士の競争で勝ち残るためにもM&Aを経営戦略と考え選ぶ企業が増えています。
事業を拡大すると認知度向上、利益の獲得、市場への対応力の獲得などメリットがあります。業績が好調で資金に余裕がある場合、すぐさま新しい事業を始め、市場シェアの拡大を狙います。市場の状況を知るリサーチ力や、時代背景に乗れる運によっても成功率は左右されます。
事業拡大による戦略は、さまざまなメリットが存在しますが、リスクも付き物です。そのため、リスクを理解せずに無理な事業拡大を行い、倒産まで追い込まれてしまった企業も非常に多く存在しています。
シナジー効果も買収価格に加味
M&Aにはどのような問題点があるのでしょうか。買い手側におけるM&Aの問題点には以下の点が挙げられます。
- のれん代の過大評価
- 海外債務・偶発債務の引き継ぎ
- 組織の統合
のれんとは、M&Aにおいて、買収する価額が、対象企業(売り手企業)の時価純資産額を上回る分の金額指します。ブランド力など無形資産の価値が高いほど、のれん代は高くなり、得られるシナジー効果も買収価格に加味します。
M&Aの実行後には、のれん代は毎年減価償却費として費用計上しなければなりません。想定よりもシナジー効果が得られなかった場合、利益分をのれん代の減価償却費が上回ります。最悪の場合、のれんの減損処理が発生し、資金繰りが一気に悪化する恐れもあるのです。M&Aの際買い手側は、必ずこの問題点を意識した上で、買収価格を決定しなくてはいけません。
簿外債務・偶発債務の引き継ぎも、M&Aの大きな問題点です。簿外債務とは帳簿の外に存在していて、貸借対照表に計上されていない債務のことです。偶発債務とは今後債務となり得る要素です。簿外債務としては「退職給付債務」や「役員退職慰労引当金」が挙げられます。
退職給付債務は、将来、従業員が退職した際に支払われる退職一時金や年金のうち、企業が負担すべきものを指します。会計上は将来の支給金額を見積り、それを現在の価値に引き直した額などを負債として計上すべきことになります。
役員退職慰労引当金に注意
役員退職慰労引当金は将来の役員退職金の支給に備えて計上する負債で、支給額が大きいので多額となりやすいです。事前に把握しM&Aを実行する場合には問題ないですが、後から発覚した時は大問題になります。
偶発債務や簿外債務は、買い手側の資金繰りを大きく悪化させる要因だとされています。M&Aの際には、デューデリジェンスを行い、問題点を十分に把握しておくことが大切です。
組織の統合も問題点だと言えます。M&Aの効果を最大限に高めるためには、優秀な人材や相手企業のノウハウを自社のシステムと統合することが大事です。M&Aの現場では、シナジー効果が合併のメリットのはずが、社内が混乱してしまったら本末転倒です。
十分に事前準備ができれば、業務体制が洗練されグレードアップされます。業務フローだけでなく、給与面や勤務先変更など従業員に伝えるべきことはなるべく早く伝えなくてはいけません。急に合併を発表された従業員にとっては企業への信頼感を損なう可能性もあります。
雇用環境や労働条件の変化も
一方、売り手側におけるM&Aの問題点は以下の点が挙げられます。
- 取引先や顧客からの反発
- 雇用や労働条件の変更
- 買い手が現れない
- 希望価格で売却できない
既存の取引先や顧客との取引条件が見直され、取引が停止される可能性があります。売り手側において、特定の買い手側の候補に会社を売却することに対する、従業員や取引先からの反発が起こるからです。M&Aの実行により事業の運営元が変わることによって、取引先や顧客との契約条件が変化するケースが多いです。
雇用や労働条件の変更も問題点のひとつです。労働条件の変更や人員削減も予定しているケースが多いですが、株式譲渡や、合併の場合は従来の労働関係がそのままM&A後の新体制に引きつがれますが、当然に解雇や労働条件の切り下げができるわけではありません。M&Aを実施すると、従業員にとっては雇用環境(労働条件等)が変化する場合もあります。
中小企業の多くは、従業員の雇用をM&Aの条件として重視するため、大きな問題点となります。M&A後に労働条件がバラバラになってしまうことを避けるために就業規則や労働協約の変更手続きを取ることになりますが、何らかの意味で従業員側にとって不利益な変更となることが多いようです。
売り手側の収益性を重視、売却は交渉力がカギ
買い手が現れないことや、希望価格で売却できないことも問題点です。経営不振に陥ってからの売却は買い手が現れにくいというリスクもあり、買い手が見つかっても、希望通りの売却先が見つかるとは限りません。M&Aの買い手は、売り手企業の将来的な収益性を重視します。これは売り手側にとっては大きな問題点となり、希望価格で売却するには、交渉力がカギになります。
まとめ
M&Aによる実施件数は、年々増え続けています。経営戦略を考える上でM&Aが有効と判断したなら、これらの問題点に気を付けて実行すると良い結果が得られます。成功事例、失敗事例を参考にしながら、具体的な課題と準備・対策を練ることがM&Aを成功に導くことになるでしょう。