頭を抱える経営者

日本の金融機関は、中小企業に融資を実行する際、経営者(社長)が個人的に連帯保証人になるよう求めてきました。

この条件によって、金融機関がリスク回避してきたわけですが、それが足かせとなり、中小企業の事業承継が行われず、多くが廃業に追い込まれる弊害も生じています。

なぜ、企業の経営者が個人保証をしているのか

企業の経営者は、銀行や信用金庫、公庫などの金融機関から融資を受けることがあります。要は、お金を借りるわけですが、この契約を法律上は「金銭消費貸借契約」と呼びます。

レンタルなどの一般的な貸し借り(使用貸借)ならば、借りたものをできるだけそのままで返さなければなりませんが、消費貸借であればいったん自分の手から離れたり、処分させたりしても構いません。

その代わりに、決められた期日までに同じ量以上の金銭をどこかから調達して返済しなければならないのです。

企業の経営者は、開業資金や運転資金などとして融資を受けた金銭を元手にして、設備や人件費などの様々な投資を行い、借りた金銭を上回るだけの利潤を得て、一部を返済に充てようとします。

しかし、思うように集客がうまくいかない、先行投資が多すぎるなどの理由で、予定通りの利潤を得られず、返済が滞る場合があります。

もし、会社が破産してしまい返済義務が免除されれば、お金を貸した金融機関が損害を被りますので、万が一に備えて、代わりに返済してもらう立場として保証人を設定します。

保証人は、他の法人や個人に依頼するのが一般的ですが、企業の負債はときに億単位にものぼります。企業の保証人を快く引き受けてくれる例はほとんどありません。

そこで、経営者自身が自ら、個人的に保証人を引き受けることを条件に譲歩し、金融機関から融資を引き出すことが、日本では特に常態化しています。特に中小企業では、経営者が個人保証をするのが当たり前となっています。

これが通常の保証人でなく「連帯保証人」ですと、会社がまだ返済不能に陥っていない段階でも、金融機関等から返済を求められる可能性があるため、法的な責任がより重くなります。

本来は、経営者個人の資産と、ビジネス上の資産を分離するのが「会社」という法人制度の役割なのですが、金融機関が経営者の個人保証を条件に融資していることによって、両者の境界線が消え去り、法人制度の本来の意味もなくなっている問題があります。

また、経営者の個人保証が、事業承継のときに障害になってしまう場合が多いのです。新しい経営者が事業とともに、個人保証まで引き継がなければならないのかが問題となるからです。

新経営者が個人保証まで引き継ぐことが条件となれば、事業承継の話がなくなってしまうかもしれません。かといって、個人保証の契約を解除するよう、金融機関に求めても、他の有効な譲歩がない限りは、なかなか応じてもらえないでしょう。

実際、日本国内において70歳以上の中小企業経営者のうち、約半数が後継者未定となっており、そのうちの2割近くは後継者候補がいるにもかかわらず個人保証がネックとなって事業承継が拒否されている状況です。

事業承継を阻害しないために

契約書を確認する男性
そこで、金融機関側に有利で、中小企業の経営者に負担が大きな「経営者の個人保証」という、日本経済界の商慣習の見直しが迫られています。

これも、様々な独自技術を持ち、地域社会での深い信頼を築いてきたにもかかわらず、個人保証が足かせとなって跡継ぎが見つからないために、現社長のその代で会社を閉じざるをえない中小企業が続出しているためです。

2013年に中小企業庁が発表した「経営者保証に関するガイドライン」によれば、経営者が個人保証した融資によって会社が返済不能に陥ったとしても、返済しきれない分の個人保証分は原則として免除するよう、金融機関側に求めています。

つまり、経営者の個人保証のリスクを軽減しようとしているのです。
参考:経営者保証に関するガイドライン

さらに、個人保証そのものを回避するような見直しも積極的に行われています。

二重保証をできるだけ回避する

事業承継が行われるとして、現経営者と新経営者の双方に保証を求めようとする金融機関の姿勢が問題視されています。これを「二重保証の問題」と呼びます。

仮に二重保証が必要な場合には、その理由を現経営者と新経営者の双方にしっかりと説明し、さらに二重保証しない場合の融資条件を併せて説明するよう金融機関に求めることとしています。事業承継が行われる局面において、経営者の個人保証は原則として解除される方向で運用が進められているのです。

中小企業庁は、会社資産と経営者の個人資産が明確に区別されており、返済のための経済的基盤が充実している場合など、一定の条件下で信用保証協会からの有利な機関保証を受けられるようにしました。

これによって、代わりに経営者の個人保証を解除できる環境を整備しています。そのため、専門職としての「経営者保証コーディネーター」を設置し、個別のケースごとに正確なアドバイスやサポートを受けられるようになっています。

経営者の個人保証なし融資

2020年からは、経営者の個人保証がなくても中小企業が新規の融資を受けられる方向性が整っています。

その場合は信用保証協会の機関保証が付きますが、手数料にあたる保証料が条件付きでゼロになるなど、非常に有利な融資が受けられる可能性もあります。この場合も「経営者保証コーディネーター」のアドバイスやサポートを受けられます。

まとめ

金融機関が中小企業へ融資を実行する際には、返済が滞るリスクを回避するため、経営者の個人保証を求める商慣習が長い間続いてきました。金融機関が立場上優位なためにまかり通ってきたわけですが、そのために多くの事業承継が行われず、廃業に追い込まれる弊害があったのです。

そこで、政府の主導により、経営者の個人保証なしでも融資が行われる方向性が整備されています。

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