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M&Aによる事業承継には、事業の一部を譲渡(取得)する契約、「事業譲渡」があります。事業譲渡の場合、顧客との取引契約や従業員との雇用契約、賃貸借契約など事業譲渡契約が必要となります。

契約書作成にはひな形に頼らず、個別の内容(個別財産、 負債、権利関係など)に適合した内容で、十分なリーガルチェックを行うことが求められています。

譲渡不可能な「著作者人格権」に注意

事業譲渡契約で重要になるのは譲渡する財産の範囲を明確化することです。不明確だと事業譲渡後に財産が事業譲渡に含まれているか否かをめぐりトラブルになります。

契約書には資産、債権、債務など事業譲渡の対象になる財産を特定するために目録をつくって契約書に添付することが一般的です。例えば資産の承継では不動産、店舗の什器・備品、事業に使用する機械や車両類です。

契約の作成にあたっては注意する点があります。譲受人の場合は対象企業に関する著作権をはじめ、知的財産権、一切の動産類も譲渡対象として明記します。

一方、譲渡人は、事業譲渡の対象に含めない財産、店舗の小口預金など事業譲渡の対象外となる場合や、事業に使用していた商標やソフトウェアなど、事業譲渡後も使用したい場合も、事業譲渡の対象外として明記しなければなりません。

特に譲渡会社が作成したプログラムやウェブサイトなどの著作物が含まれる場合は「著作者人格権」という権利があり、譲渡が不可能な権利とされていますので注意をしてください。

事業譲渡が成功するまでの過程が重要

事業譲渡契約書は、売り手側と買い手側双方が合意し作成するのが好ましいです。

両社が同時に集まって作成するのは現実的ではありません。従って、多くの場合、事業譲渡契約書の原案を売り手側が作成して、それを買い手側に対して提出するのが一般的です。事業譲渡契約書は基本的に自社で作成したほうが、有利な取引、交渉に運べる可能性があります。

しかし、事業譲渡契約書を自社で作成するのは、簡単ではありません。専門的な知識がなければ、意味を持ちません。事業譲渡契約書については、可能な限り自社で作成すべきですが、安全なのは弁護士などに依頼し、作成してもらい、相手側に提示することがいいでしょう。

事業譲渡にかかわらず、契約書は非常に重要なものです。とはいえ、事業譲渡契約書がメインになるわけではありません。事業譲渡が成功するまでの過程が重要です。事業譲渡は事業の譲渡が終われば終了となります。

しかし、重要なのはその後の経営です。自社にとって有利な事業譲渡契約書の作成ばかり重視するのではなく、その後の経営についても考える必要があります。

従業員の雇用扱いも契約書に必須

契約書を確認する男性達
事業譲渡にあたっては、未払い債務を譲受人に承継させる場合は、目録にリストアップして事業譲渡契約書に添付します。特に注意を要する点は、譲渡人の代表者が連帯保証人となっている債務を譲受人に承継させる場合、連帯保証人から外してもらうための手続きを明記します。

債務の承継については原則として事業譲渡後も、譲渡会社は債権者から支払いを求められれば支払う必要があります。そのため、譲渡会社が事業譲渡後に債務の支払いをした場合に、譲受会社に請求できる内容の契約条項を入れておく必要があります。

一方、譲受人の立場から注意を要する点は事業譲渡後に思いもよらぬ未払債務が発覚し、請求を受けるリスクがあることです。対策としては事業譲渡契約書の中に、目録にリストアップされた債務以外にその事業に関する債務が存在しないことを、譲渡人に保証させる内容の契約条項を盛り込むことが必要です。

また、譲渡する事業に関する取引先との契約は、その譲受人の取引先の同意がない限り引き継がれません。事業の承継を成功させるために不可欠な契約については、譲受人の契約先が契約の承継に同意してくれるかどうかについて事前に打診して確認することが必要です。

従業員の転籍に関する契約条項や、従業員の雇用についての扱いも事業譲渡契約書の作成において重要になるポイントです。譲渡する事業に従事している従業員との雇用契約については、従業員の同意がない限り、譲受会社に引き継がれません。

そのため、事業譲渡にあたっては、譲渡対象事業に従事している従業員についてどのような処遇をするかを検討し、契約条項に盛り込んでおく必要があります。

まとめ

事業譲渡契約書は事業を丸ごと全部譲渡するという内容になることが多いため、重要性が高く、契約後のトラブルも多くなっています。

譲渡人がした取引について取引先から未払い債務の支払いを請求、事業譲渡により譲り受けたウェブサイト等について、譲り渡した会社から権利主張され、修正等ができなくなるなどのトラブルを防ぐためには、個別内容に適合した事業譲渡契約書を作成しておくことが必要です。

また、事業譲渡については会社法にも一定のルールが定められており、その内容を確認しておくことも重要です。

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