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身内や取締役の中に後継者が見つからずに悩んでいる会社経営者は、思いのほか多いのが実態です。そこで、後継者を外部に求めて、他の法人や個人に経営権を移すことも有力な選択肢となります。

また、経営権を移譲させる方法として、「株式の譲渡」が、実際によく使われておりその大きなメリットも含めて、この記事で詳しく解説します。

なぜ、株式譲渡によって事業承継できるのか?

株式を他の会社や個人に譲渡することによって事業承継が実現できるのは、株式がその会社に対するオーナーシップ(所有権・支配権)そのものだからです。そもそも株式会社とは、株式を発行してその対価を出資として受けることによって設立される会社です。

株式とは、その会社の所有権、支配権を細分化させたものです。

その株式会社の立ち上げのために、たとえ多額の出資が必要だったとしても、将来、その株式会社が利益を出したときに株主へ配当を分け与えることを約束することによって、経営者だけでなく多数の出資者を募って、立ち上げに必要な額を調達することが可能になるのです。

最初の株主となるときに出資した資金は、原則として会社から取り戻すことはできません。

その代わりに、株主はその株式を他の個人や法人へ自由に売却して、所有権・支配権を移転させることで、実質的に出資に相当する額を取り戻すことができます。これが株式譲渡です。

株式とは、株式会社に対するオーナーシップの一部ですので、その会社が発行した株式の多くを買い集めることによって、その会社に対する支配権や発言力を高めることができます。

なぜなら、株式会社の重要な方針決定には、株主による「資本多数決」が採用されているからです。議題に賛成した株主の「人数」ではなく、賛成した株主が保有している「株式の数」が多いかどうかで、議題が可決するかどうかが決められます。

仮に、過去100株を発行した株式会社があり、そのうち1株ずつを49人の株主が保有しているとします。これらの株主は同数の株式を保有しているので、それぞれが平等に取り扱われます。

しかし、残り51株を1人の株主が独占していれば、発行済みの100株のうち、その株主だけで過半数を占めていることになります。つまり、他の49人が反対していても、その株主1人の意見が自動的に多数意見として採用されるのです。

上記のように、会社が発行した株式の過半数を保有している法人・個人が、その会社の大方針を決められるようになるのです。この場合、株主の過半数を保有された会社を「子会社」といい、子会社の株式の過半数を保有している会社を「親会社」と呼びます。

親会社と子会社は、法的には別個の独立した法人ですが、親会社は子会社を実質的に支配している状態となります。

もし、ある会社の代表取締役が、すべての株式を保有している場合、事業を承継させたい相手方企業に全体の50%を超える株式を売却ないし贈与すれば、実質的にはそれだけで事業承継の手続きが完了するのです。これが株式譲渡による事業承継です。

さらに多くの株式を取得し、そして「完全子会社化」へ

ただし、株式会社の議決事項の中には、発行済み株式総数の3分の2を超える株主の賛成がなければならないと「特別多数決」が求められる「特別決議事項」もあります。

たとえば、M&Aなどの事業譲渡や組織再編、会社の根本ルールである定款の変更、資本金の減少などといった、会社の運命を左右しかねない重要事項です。

たとえ、発行済み株式総数の過半数を保有していても、ほかに3分の1を超える株式を保有する有力な株主がいれば、特別決議事項に対して反対意見を述べる(実質的な拒否権)ことを許してしまいます。

こうした特別決議事項に対しても、単独での決定権を持っておくためには、事業を承継する法人や個人は3分の2を超える株式を独占しておく必要があります。
M&A予算の余裕が許せば、事業を承継する側の買い手企業は、発行済み株式総数のすべてを取得して、「完全子会社化」させるのが確実です。

株式譲渡による事業承継のメリット

会社の売り手が買い手に対して、株式を譲り渡すことによって行う事業承継には、次のようなメリットがあります。

手続きが比較的簡単

株式は会社の支配権そのものですので、子会社となって事業を承継させる企業が、過半数ないしすべての株式を他社へ譲り渡して親会社とし、そのとおりに株主名簿を書き換えれば、それだけで手続きが完了します。

実際には、それに加えて秘密保持契約を締結しますが、いずれにしても、他の事業承継方法よりもシンプルな方法で完結させられるのは大きなメリットです。

法務局などの公的機関にも届け出る必要がないので、スピーディーに完了するわけですが、公的なチェックが入らないので、お互いの会社の自己責任となります。株式譲渡の後になってトラブルが生じても、当事者同士で解決しなければなりません。

まとまった現金を得られる

事業承継させる会社のオーナー(創業者や大株主など)は、株式譲渡によって得られる対価として、まとまった額のキャッシュを得ることができるのもメリットです。老後を平穏に送るための資金にできるほか、投資や新規事業などで、さらに増やすこともできるでしょう。

従業員への影響が少ない

吸収合併などによるM&Aで事業承継をすると、合併された会社は消滅し、新たな会社のしくみや風土、給与体系や就業規則に従わなければならないため、今まで会社運営を共にしてきた従業員に、大きな精神的負担をかけるおそれがあります。

株式譲渡による子会社化では、会社そのものの存在は維持されるため、従業員に与える影響が少なくて済みます。優秀な従業員が辞めて、他社へ移ってしまうリスクも減らすことができるのです。

まとめ

株式は会社に対する支配権そのものですから、その株式の大半ないし全てを他社に譲り渡すことで、シンプルな形で事業承継(M&A)を達成できます。

ただし、合同会社や有限会社など、株式を発行しない形態の会社では使えない方法ですので、念のため注意してください。

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