TAXと記載された木のブロック

会社の事業を他の会社に売却する事業譲渡は、M&Aの手法の一つとして中小企業でもよく用いられています。事業譲渡は会社のさまざまな資産について、対価を得て他の会社に譲渡するという手法です。そのため、譲渡する資産の種類によって消費税が課せられることになります。

この記事では、事業譲渡において課税対象となる課税資産と課税対象とならない非課税資産の分類とその計算方法について解説します。

事業譲渡でかかる消費税とは

事業譲渡における消費税は、売却する資産すべてに対して課税されるわけではありません。事業譲渡において売却する資産は、消費税が課税される課税資産と消費税が課税されない非課税資産の2種類に分けられます。そして、このうち課税資産額×10%(2020年現在)が消費税額となります。

たとえば、事業譲渡における全資産額が5億円で、課税資産がそのうち2億円だった場合、2億円×10%=2,000万円が消費税額となります。

消費税の納税にあたっては、事業の売り手側が買い手側から消費税額を徴収し、それを申告して納税します。つまり、事業の売り手側は、事業の譲渡価格に消費税額を加えて買い手側に請求する必要があります。
そのため、事業の売り手側はどの資産が課税対象となる課税資産なのかを適切に仕分けし、消費税額を算定しなければなりません。

消費税が課される資産は?課税資産と非課税資産の分類

では、どのような資産が課税資産と非課税資産にあたるのでしょうか。

課税資産
課税資産としては、次の4種類が主にあげられます。

  • 有形固定資産(土地を除く)
  • 無形固定資産
  • 棚卸資産
  • のれん代(営業権)
  • 以下でそれぞれ詳しく説明します。

    有形固定資産(土地を除く)

    有形固定資産とは、譲渡される事業において用いられる建物、器具備品、車両運搬具、機械装置、船舶などをさしています。具体例としては、以下のようなものがあります。

    建物:事務所、店舗、倉庫、工場など
    機械装置:製造や建設で使用する機械や装置など
    車両運搬具:自動車、トラック、フォークリフトなど
    船舶:客船、貨物船、飛行機、ヘリコプターなど
    工具・器具および備品:作業用工具、測定装置、事務机、パソコン、コピー機など

    ただし、有形固定資産には通常土地も含まれますが、例外的に事業譲渡では消費税の課税対象にはならないため、注意が必要です。

    無形固定資産

    無形固定資産とは、法律上の権利や営業権など、物理的な形態を持たない固定資産をいいます。
    具体的には、ソフトウェア、特許権、意匠権、商標権、漁業権などがあります。

    棚卸資産

    棚卸資産とは、企業が販売することを目的として保有している商品や、加工して商品を作るために保有している原材料など、いわゆる在庫のことをいいます。
    棚卸資産は、事業の売り手側において正確な数を把握していないケースも多く、事業譲渡にあたっては算定に時間と労力がかかる可能性があります。

    のれん代(営業権)

    のれん代とは、事業全体の価額からその事業が使っている有形財産の価額を引いたもので、営業権ともいわれます。
    事業は、有形財産と無形財産が一体的に活用され、それぞれが連携して大きな価値を生み出します。そのため、事業の価値を算出するにあたっては、単純に有形財産の価値だけをみるのではなく、無形財産の価値も考慮する必要があります。この無形財産の評価額がのれん代です。
    無形財産の例としては、ブランド、知名度、競争力、信用力、技術、ノウハウ、人材、組織、企業文化、社風、物流、取引先との関係、市場シェア、売上規模、顧客リストなどさまざまなものがあげられます。

    のれん代自体を具体的に算出することは難しいため、一般的には営業キャッシュフローの3~5年分で計算します。何年分の営業キャッシュフローを計算するかは業種によって異なってきます。たとえば、利益が安定的に発生しにくい業種は2〜3年分と短く、安定的に利益が発生する業種では5年分などとされます。

    非課税資産

    非課税資産としては、次の3種類が主にあげられます。

  • 土地
  • 有価証券
  • 債権
  • 土地

    通常の会計処理における仕訳では、土地は有形固定資産として扱われます。
    そのため、土地も有形固定資産として消費税の課税資産となるように思われます。しかし、事業譲渡の消費税の計算においては例外的に非課税資産として扱われます。

    土地の例としては、店舗や事務所などの敷地、営業活動に使用する土地などがあげられます。

    有価証券

    有価証券とは、それ自体に財産的価値があるため、譲渡することによりその有価証券の持っている財産的権利を移転させることができるというものです。
    たとえば、株式や債券、手形、小切手などがあげられます。

    債権

    債権とは、相手方に対して特定の行為をさせる権利のことをいいます。
    たとえば、相手方に対して売掛金を支払わせる権利である売掛金債権や、相手方に対して貸金を返済させる貸付金債権などがあげられます。

    事業譲渡でかかる消費税の計算方法

    では、以上をふまえて次の事例で実際に消費税を計算してみましょう。
    電卓と人の人形

  • 棚卸資産 …… 1,000万円
  • 建物 …… 4,000万円
  • 土地 …… 6,000万円
  • 車両運搬具 …… 1,000万円
  • 機械 …… 1,000万円
  • 有価証券 …… 1,000万円
  • 特許権 …… 1,000万円
  • 債権 …… 2,000万円
  • のれん代 …… 3,000万円
  • 事業譲渡の消費税額の計算は、以下の3ステップで行うことができます。

    ①課税資産と非課税資産を分類する

    まず、課税資産と非課税資産を分類します。
    上記の例では、棚卸資産、建物、車両運搬費、機械、特許権、のれん代が課税資産となります。
    他方、土地、有価証券、債権は非課税資産となります。

    ②課税資産額を計算する

    次に、課税資産額を計算します。
    上記の例では、棚卸資産1,000万円+建物4,000万円+車両運搬費1,000万円+機械1,000万円+特許権1,000万円+のれん代3,000万円=1億3,000万円が課税資産額となります。

    ③消費税額を算出する

    最後に、課税資産額に消費税率10%を掛けて消費税額を算出します。
    上記の例では、1億3,000万円×10%=1,300万円が消費税額となります。

    まとめ

    以上のように、事業譲渡においては消費税が課税される資産と消費税が課税されない資産を分類して消費税額を算出する必要があります。

    何が課税資産で何が非課税資産にあたるのかについては税務の専門知識が必要となりますので、判断が難しい場合は、会計士や専門のM&Aアドバイザーに相談するようにしましょう。

    事業承継の成功は仲介会社の選定で決まる!

    おすすめの記事