右肩上がりのグラフ

事業承継においてM&Aを選択する場合、「家族や従業員の中から後継者が現れなかったので、仕方なく身売りする」ような、いささか窮地に追い込まれたイメージがつきまといがちです。

もちろん、長年にわたって大切に育ててこられた会社を、今後も維持・発展させるために事業承継を行うわけですから、引退する経営者の皆さんも「後継者さえ見つかれば終わり」と安易に捉えていらっしゃるわけではないはずです。

ここで、事業承継で後継者を確保するためにM&Aという手段を選択することを、受け身でなく、将来のために戦略的に考えていくことが重要となります。

この記事では後継者を見つけ、経営権を引き継ぐ事業承継に伴うM&Aを、前向きかつ戦略的に行い、明るい将来へ繋げる施策を提案します。
 

相乗効果(シナジー)を期待する戦略としての事業承継M&A

悩む経営者
複数の企業が手を取り合って融合するM&Aを行うからには、1+1が2にとどまらず、「3」にも「4」にも拡大するようなシナジー効果を生み出せる組み合わせを模索すべきです。

ただ、お互いに相性がよくなければ、M&Aによって逆効果になる可能性がありますので、お互いの強みを打ち消し合わないよう、それぞれにない強みや魅力を生かし合える関係性を構築していくことが重要となります。

相手方企業にメリットを与える姿勢が重要

M&Aで買収される側は、ともすると後継者が見つからないことに負い目があって、不利な条件で早急に応じたくなるなど、交渉面で弱気になることもあります。

しかし、それまでに培ってきた人脈や信頼など、有形無形の資産に自信を持って交渉に臨まなければなりません。M&Aの相手方も、自社にない強みを求めて交渉に入っているからです。

同業種でのM&Aを行えるのであれば、その両者間でのライバル関係を解消できるため、顧客の奪い合いや必要以上の宣伝合戦に経営資源を消耗する必要がなくなります。それだけでも、大きなメリットを感じる同業者がいる可能性が大いにあります。

その会社がこれから進出したい業界で、事業承継を求めている別の会社があるのならば、その会社を買収することで、顧客や取引先を獲得する手順を大幅にショートカット(時間や手間の短縮)できるメリットがあるのです。

その点でも、自社の強みを客観的に把握し、多額の投資をしてでもその強みを欲しがっている企業を見つけ出すことが、M&Aによる事業承継成功の鍵となるのです。

それと併行して、負債や租税の未納、他社から提訴される恐れなど、M&Aを行うことによるリスクを最小限に抑えるため、前もってリスクとなりうる諸問題を片付けておくことも必要となります。

現場がしっかり溶け合うことも重要

また、内部的な企業制度や企業文化(社風)の融合も重要です。現場で働く従業員が気持ちよく働ける環境を整えることが、M&Aをきっかけにした相乗効果の源泉にもなりうるからです。

営業やバックオフィス部門など、両社で重複する部分も多いでしょうから、衝突や縄張り争いなどが起きず、お互いのいい部分を尊重し、高め合える融合を目指したいものです。

買収した側が買収された側の企業文化を侵食し、合わせるように仕向けることは、買収された側の従業員に強いストレスを与え、長い目で見れば人材の流出など、M&Aをきっかけに損失が生じる可能性があります。

たしかに、M&Aによる事業承継は会社に及ぼされる変化が大きいです。買収されるのであれば、すでに事業で大きな成功を収めている経営者の傘下に入ることになるため、既存の役員や従業員は、新たな企業文化や社風に合わせなければならないストレスがかかるおそれもあるでしょう。

不用意な対立や摩擦が生じないよう、お互いの社風の良い面を擦り合わせながら、歩み寄る姿勢が大切です。

イグジット(エグジット)戦略としての事業承継M&A

笑顔の経営者達
たとえば欧米のベンチャー企業では、事業を成功させて大金を得ることで、アーリーリタイヤ(早期引退)で、その後の生涯を悠々自適に送ることをモチベーションに起業している若者が少なくありません。

もちろん、アーリーリタイヤが成功するのはほんの一握りですが、アーリーリタイヤの前提となるまとまった金額を得る手段としては、IPO(公的な証券取引所への株式上場)だけでなく、有利な条件でのM&Aを実現させることも主流になっているのです。

株式を上場すると、大企業から個人まで大勢の株主を相手にしなければなりませんし、利害関係も増えます。様々な厳しい要求にもさらされるため、経営者としてストレスフルに感じる起業家も少なくありません。

その点、会社を売却するM&Aならば、まとまった額の金銭を受け取った上で経営をまかせることができるのです。

あくまでも、買収を申し出た企業の経営者の気持ち次第ですので、関係性を構築し、交渉がうまくいけば、一般的な企業価値の算定基準よりも遙かに高い買収額が提示されることも珍しくありません。

そのまま引退することもできれば、その資金を元手に新たな事業を立ち上げたりすることも可能です。むしろ欧米ではイグジットの主流になっています。

その傾向にならって、日本のベンチャー企業でも自社売却をイグジットの目標に据えている起業家は増えています。いささかドライな考え方ではありますが、あなたが大切にしている家族や身近な友人と、最高の老後(セカンドライフ)を送る上でも、事業承継の選択肢のひとつにM&Aも加えてみてはいかがでしょうか。

まとめ

一般的に、M&Aは事業拡大などを目的として戦略的に行われますが、事業承継を目的とするM&Aでは「後継者が見つからなければ、最悪、会社を閉じなければならない」といった焦り、浮き足だった感情が先行しがちです。

たしかに「会社を終わらせたくない」「従業員の雇用を守りたい」などの気持ちが優先されると、事業承継は後ろ向きで保守的な営みになってしまいます。

しかし、会社の強みや売りを改めて理解し、他人様に売り渡しても恥ずかしくないよう経営体制の弱点を潰していけば、事業承継のためのM&Aを、他社のよりよい発展に結びつけたり、できるだけ企業価値が高く見積もられるように磨き上げたりする戦略的な思考へと移行できるはずです。

M&A戦略には、自社の強みや弱みを客観的に見つめる視点が必要ですから、経営者ご自身の思い入れやこだわりに惑わされず、M&Aの専門家のアドバイスを仰ぐことも重要となります。

事業承継の成功は仲介会社の選定で決まる!

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