事業承継のM&Aを達成させるため、当事者となる売り手と買い手、双方の企業は、マッチング・顔合わせ・基本合意・デューデリジェンスなど、いくつもの段階で力を合わせて踏んできました。
事業承継を希望する売り手企業においては、まず、M&Aを仲介する専門家とアドバイザリー契約を結び、幾多の候補企業と条件を擦り合わせ、面談の結果、秘密保持契約や基本合意を取り交わし、厳しいデューデリジェンスを受け、最終契約書を取り交わし…… その間にも、M&A準備を進めている事実が、従業員に発覚しないよう秘密裏に進めていかなければなりませんでした。
そうした困難を乗り越え、いよいよ、念願のM&Aが実を結ぶときが来たのです。
この記事では、一連のM&A手続きの最終局面にあたる「クロージング」と、その後に行われる手続きについて解説いたします。
目次
M&Aにおけるクロージングとは?
クロージング(closing)とは、M&Aの手続きが正式に完了し、M&Aの最終契約が発効されることです。
このクロージングをもって、M&Aの売り手企業の経営権が、買い手企業に正式に移行することになります。
その対価として、売り手企業から買い手企業へ、M&Aの条件となる売買価格が支払われます。つまり、買い手企業への事業承継が終局的に達成され、新たな経営体制がスタートする場面といえるのです。
ただ、最終契約の年月日とクロージングの年月日が一致せず、クロージングまでに一定の猶予期間が設けられることが多いです。その猶予期間は1ヶ月程度で設定される場合が一般的です。
なぜなら、最終契約書を締結した時点で、一連のクロージング条件を満たしていない場合があるからです。
裏を返せば、最終契約の時点でクロージング条件をすべて満たしているのならば、最終契約と同時にクロージングまで完結されることになります。
クロージング条件とは?
クロージング条件とは、M&Aが適法に満足のいく形で実現されるため、最低限で満たすべき条件であり、その多くは最終契約書の条項で定められます。
クロージングまで達成しても、後にクロージング条件を満たしていないことが明らかになれば、M&A契約において、法律上の有効性が主張できない場合があります。
仮に利害関係人から提訴され、裁判に持ち込まれれば、最悪の場合、判決でM&Aが無効とされ、事後処理に多大な負担を強いられるケースもありえます。
クロージング条件には、おもに「前提条件」「表明保証条件」「遵守・誓約条件」があります。
以下、それぞれについて詳しく説明いたします。
クロージング条件1 前提条件とは?
M&A手続きにおいて、最終契約後のクロージングが実行されるための法的条件のことを、前提条件といいます。別名ではコンディション(condition)とも呼ばれます。
前提条件を満たさずに、クロージングを法的に有効とすることはできません。つまり、前提条件はM&Aを完結させ、新たな経営体制を正式に始動させるために、最低限クリアすべき条件といえます。
業法に基づく許認可・届出の前提条件
たとえば、それぞれのビジネス業界で、法律上義務づけられている許認可や届出などが定められている場合があります。このような許認可や届出など、法的に定められた一連の手続きが前提条件に該当します。
クロージングの日までに、この種の許認可や届出が適法に完了していない限り、M&Aの手続きは有効に完了しません。
独占禁止法に基づく届出の前提条件
また、M&Aの規模によっては、独占禁止法(私的独占の禁止および公正取引の確保に関する法律)の規制に引っかかる場合がありえます。
特定の業界内で、自由な経済競争が損なわれかねない、マーケットの一社独占ないし少数社寡占が進行しかねないM&A(合併などの複数企業結合)が行われる場合には、独占禁止法によってM&Aの実行そのものが禁じられています。
一方、M&Aの買い手企業が属する企業グループの売上高の規模が200億円超、売り手企業の売上高の規模が50億円超で、M&Aによって移転した株式によって、買い手企業が、売り手企業の議決権に対する重大な影響を及ぼす少数株主となるような大規模M&Aにおいては、公正取引委員会への届出が必要となります。
つまり、この届出がなされていない間は、クロージング手続きへ入ることができません。M&Aの完結が延期、ないし中止となるおそれがあります。
後発事象の不存在という前提条件
そう頻発することではありませんが、デューデリジェンスではM&A売り手企業に大きな問題が見つからなかったものの、その直後に経済情勢などの社会環境が大きく変わったために、最終契約で約束した条件でクロージングに入ることは不合理、あるいはM&Aそのものを中止しなければならない事情が生じることもありえます。
そのような後発事象が最終契約以降、起きていないことが確認されることも、クロージングの前提条件とされることもあります。
なお、前提条件については、これから述べる表明保証条件や遵守・誓約条件もすべて含める形で、より広い意味で位置づける見方もあります。
クロージング条件2 表明保証条件とは?
表明保証条件は、クロージングに先立って行われたデューデリジェンスの手続きで、M&A売り手企業から提供された基本情報に、誤りや虚偽が入っていないことを示す条件です。
英語でrepresentations and warrantiesといい、略称で「レプワラ」と表現されることもあります。
通常の場合は「最終契約時点」や「クロージング時点」など、特定の年月日を指定して、そのときに表明保証ができるかどうかで、条件の成就定款を判断します。
そもそもデューデリジェンスは、M&A売り手企業に、隠れた欠陥や問題点、課題などが存在しないかを、公認会計士や弁護士などの財務や法務等に関する専門家のサポートを得ながら、買い手企業がリサーチし、本当にM&Aを実行していいのかどうか、あるいはどれぐらいの金額で買収すべきなのかの裏付けをとるための重要な手続きです。
つまり、デューデリジェンスに際して提供された情報が正しく示されていることを裏付けられていなければ、M&A売り手企業の信義や誠実さに疑いが生じうるため、M&Aの協議を進めていく前提を欠くのです。
クロージング条件3 遵守・誓約条件とは?
遵守・誓約条件とは、M&Aの最終契約を締結して以降、クロージングに入るまでの期間中に、売り手企業が守らなければならないルールを指します。
英語でcovenantsのことを指すため、遵守・誓約事項のことを「コビナンツ」と呼ぶ専門家もいます。
売り手企業が、この遵守・誓約事項に違反した状態でM&Aの最終局面に入っても、買い手企業との間で成立した協議の前提を欠いているため、クロージングできず、M&Aは不成立ないし延期となるおそれがあります。
具体的には、以下のような項目が遵守・誓約条件に該当します。
クロージング後の「統合手続き」
クロージングの終了をもって、M&Aの契約に沿った手続きは完結となります。事業承継も無事に行われたものとして扱われ、一安心です。
ただ、本当の意味でM&Aが成功したといえるためには、売り手企業の事業が買い手企業の中で実際に新たな形で引き継がれていくように配慮し、買い手企業の組織の中で定着させなければなりません。
これを総称して「統合手続き」と呼びます。英語でPost Management Integrationといい、「PMI」という略称も用いられます。
この統合手続きがうまくいかなければ、「むしろM&Aをしないほうがよかった」と、買い手企業が後悔する不幸な結果となりかねません。
多くの人的・経済的・時間的資本が投入され、ようやくクロージングしたM&Aを決して台無しにしないためにも、買い手企業の責任で統合プロセス(PMI)を油断せず確実に進めていかなければなりません。
社内で統合プロセスを進めるための専門的なプロジェクトチームを組むことも少なくありません。
「立つ鳥、跡を濁さず」とのことわざもあります。M&Aによって事業承継を終えて引退した売り手企業の経営者としても、決して他人ごととして片づけてはいけません。
まずは、事業のシステム・しくみ面で、両社で持ち寄ってきたものの統合、擦り合わせを行う必要があります。
企画部門・調達部門・製造部門・流通部門・営業マーケティング部門・広報部門・バックオフィス部門・経営企画部門などの設備や進め方、就業規則などの関連ルールを統合していきます。
ただ、それだけでは不十分で、会社は人が動かすものである以上、両社の従業員の気持ちやチームワーク、社風などの統合も行わなければなりません。
大切なのは、買い手企業の立場や言い分ばかりが強くなりすぎないよう、売り手企業が培ってきたしくみや社風のいいところも取り入れていくことです。
そして、できるだけ早期にM&Aが実質を帯びていくよう、事業を進める上での各部署のシステム・しくみの統合と、企業文化や社風などの人的な統合を、同時並行的に進めていかなければなりません。
もし、買い手企業のやり方ばかり押し付けたり、差別的な取り扱いが横行したりすれば、売り手企業の従業員が不満を抱えて流出した際には、取引先や株主からの評判にも悪影響を及ぼしかねません。
そのように、せっかくのM&Aが不成功だったとの評価が広がらないよう、ひとつひとつの要素に配慮し、小さな不満の声にも耳を傾けていく必要があります。
まとめ
M&A手続きの締めくくりともいえるクロージングですが、そもそもクロージング条件を満たしていない場合には、クロージングできず、M&Aそのものが中止ないし延期してしまう危険性すらもあります。
そこで、M&Aの準備に割いてきた膨大な努力を無駄にしないためにも、最終契約からクロージングに至るまでの流れについて、M&A仲介会社・アドバイザリーからの専門的かつ適切なアドバイスを受けることが重要となるのです。
事業承継総合センターでは、大切に育ててこられた会社の後継者探しにお悩みの経営者の皆さまに、M&Aというソリューションをご提案し、経験豊富でクライアント様のお悩みに真摯に寄り添えるM&A仲介会社・アドバイザリーをご紹介しています。
ご相談だけなら無料で承ることができますので、ぜひ一度、お問い合わせをくださいますと幸いです。